広小路堀端に物凄き怪音・昭和十年夏の怪談

川端たぬき

昭和10(1935)年の夏、秋田市広小路「大手門堀」に、夜な夜な怪音が鳴り響く異変があり、あたりは深夜まで、噂を耳にして集まった物見高い野次馬でごった返した。

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真夏の夜にふさわしい猟奇的な話題が広小路濠端に提供されている……市内広小路大日本電力(*1)前濠端に毎夜午後十一時を過ぎると付近の人々は勿論、遠くから噂を聞いての恐いもの見たさの人々が朝の三時頃までずらっと並んで、向い側武徳殿(*2)土手にまで懐中電灯を照らし照らし黒山の人だかり……広小路濠端に夜十一時を過ぎると物凄き怪音がするとの噂が立ったのが数日前のことで噂はそれからそれへと伝えられて怪物が出るとか、美人が出没するとかと「こわいよ」「またきこえた」などのこわごわの見物人と、怪物の正体見届けんとの街の勇士までが現れて、寝苦しい真夏の夜にふさわしき人出となって賑やかさである……午後十一時人垣を押しわけて出ると、黒い水面の蓮の葉の彼方からカエルのゲコゲコとかまびしき中からウォーン、ウォーンと怪音が時々響いてくる、まさに怪音だ「うすきび悪いわ」若い婦人の声……この怪音の原因について街の人々は「怪物説」と「食用蛙説」との二派に別れてまちまちの論争が続けられている、その一説を聞くと目下問題中の昔ながらの矢留城のお濠を埋立てするの計画(*3)にお濠の主が何百年来住みなれた住家を奪われるのを憤慨しての怪音となるのだとの怪談までが生まれて、さすがに薄気味悪いが夜が更けるにしたがって、人の群もだんだん小さくかたまって、話も静かになってゆく、だが怪音はそんなことにはさらに頓着なく、サッと吹いてきた涼風の中にウォーンと響いた、人々の首をちょっとちゞめさせて……

昭和十年八月三日付『秋田魁新報』より

(*1)大日本電力
現在の「東北電力 秋田営業所」(広小路)

(*2)武徳殿
 「秋田県立美術館」旧館の地にあった武道場。下記リンク先に関連記事あり
二〇世紀ひみつ基地 平野美術館と大日本武徳殿・千秋公園

(*3)お濠(ほり)を埋立てする計画
昭和初期、広小路沿いの外堀を埋め立てる計画が浮上するも、各方面から反対の声があがり断念。明治から大正期にかけて埋め立てられた広小路外堀のことは下記リンク先に
二〇世紀ひみつ基地 広小路から消えたお堀とホテルハワイ

千秋公園・大手門堀
2013.07 千秋公園・大手門堀

市民を騒がせた「大手門堀」の怪音の原因は、新聞記事にも見える「食用蛙」(ウシガエル)と思われる。


ウシガエルの合唱

大正中期に米国から食用として移入されたウシガエルは、国の指導により、昭和に入ると各地で養殖が始まるが、養殖場から脱走した個体が野生化し、全国に分布するようになる。

面白いことに、秋田市における騒動と同年代、北海道旭川市街でもよく似た事件があった。 

昭和4年7月26日の旭川新聞によりますと、

この辺りで、夜な夜な不気味な鳴き声が響き、
「幽霊だ」「いや妖怪だ」と
街をあげての大騒ぎになったそうです。

現場には、怖いもの見たさに大勢の人が集まり、
まるで夏祭りのようなにぎやかさだったとか。
新聞の見出しには次のように書かれています。
 「化け物見たさに賑ふ夏の宵
 牛朱別川辺の小沼の畔 さても物凄い唸り声

で、結局この騒動、どうなったかといいますと、
なんと近くで飼育されていた食用蛙が
鳴き声の主と分かって一件落着したそうです!

旭川キャスター・スタッフブログ:NHK | 牛朱別川で〝妖怪騒ぎ〟!?」より

昭和10(1935)年の夏、秋田市民の話題となった怪音の源に違いない、ウシガエルの不気味な鳴き声は、当時の日本人にはなじみのない未知の音色であった。

千秋公園・大手門堀
2014.07 千秋公園・大手門堀

環境に順応し大型かつ貪欲なウシガエルが定着した池や沼から、モリアオガエルなどの在来生物が見られなくなるなど、生態系に被害を及ぼすことから、平成18(2006)年に施行された「外来生物法」で、ウシガエルを「特定外来生物」に指定、国内では研究目的以外の捕獲・運搬・飼育・販売が禁止されている。

昭和初期にウシガエルの餌として米国から移入後、野生化したアメリカザリガニも、生態系に影響を与える「要注意外来生物」に指定されているが、こちらは飼育・販売などの規制はない。

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関連リンク

ウシガエル - Wikipedia
特定外来生物の解説:ウシガエル [外来生物法]
ウシガエル:カエルの鳴き声図鑑

名声博すも短命に終わる-農家の副業 食用蛙養殖
農家唯一の副業『食用蛙飼養法』昭和2年

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あきたのSH
こわい話、ふしぎな話

川端たぬきさん、こんばんは。
あきたのSHです。
ひさびさの、こわい?話。ありがとうございます。
ときどき、こわい、ふしぎな記事をみせていただきますが、
川反にあらわれたたぬきの記事が好きでした。もしかしたら、
ハンドルネームはそこからでしょうか?

  • 2014/08/23 (Sat) 18:51
  • REPLY
川端たぬき
Re: こわい話、ふしぎな話

> 川端たぬきさん、こんばんは。
> あきたのSHです。
> ひさびさの、こわい?話。ありがとうございます。
> ときどき、こわい、ふしぎな記事をみせていただきますが、
> 川反にあらわれたたぬきの記事が好きでした。もしかしたら、
> ハンドルネームはそこからでしょうか?

いつもコメントや情報ありがとうございます
現在のハンドルネームの由来ですが、それ(川反のムジナ(タヌキ)慰霊碑)も関係してます

  • 2014/08/24 (Sun) 21:40
  • REPLY