秋田駅前・竜神堂と純喫茶「カカシ」界隈・1970年代初頭
整理中に出てきた、とのことで頂戴した古いスナップ写真。今回はこの写真を考証するが、なかなか情報量の豊富な一枚であった。
撮影地点は秋田駅前・平和通りの裏側。現在の「フォンテAKITA」(旧イトーヨーカドー秋田店) 北側の大屋根下である。
手前から平和通りに所属するナショナルショップ「中央電気商会」「石川履物店」おもちゃの「ポパイ」洋服の「かめや本店」と並び、「かめや本店」西側の小路を左折すると、伝説的駅前食堂「まんぷく食堂」が店を構える末広町に抜ける。周辺の商店配置図等は文末の関連記事リンク先に。
「かめや本店」はのちに同店経営のジーンズショップ「ジーンズ・アベニュー」と変わり「かめや本店」が「金座街」の広小路側西角の「かめや第一支店」跡に移転。
秋田初の全天候型アーケード街・平和通りの裏通りにあたるが、「ポパイ」「かめや本店」のように、表通りと裏通りの両側に出入口を設けて、客の導入を促進する商店もあった。
▲2017.09 秋田駅前大屋根下
左手に「まんぷく食堂」の電柱看板。この日は駅前商店街の夏祭り期間中のようで「石川履物店」裏手に八大龍神の幟旗(のぼりばた)が立てられ、その下に御神輿が確認できる。手前の人物に隠れて、わずかに見える白地に赤く “祭” と描かれたとおぼしきものは、大人用の御神輿の頭頂部か。
幟旗の向いに龍神様を祀(まつ)る古い「竜神堂」が鎮座していた。祭日は8月16日17日。明治35(1902)年に秋田駅が開業するのに先立ち、旅館や商店が建ち始めた頃に創建された神社だったのだろう。龍神は水神であることから、街を火災から守る火伏(ひぶ)せの神として信仰された。
川反や駅前の飲み屋で尺八を披露して日銭を稼いで生活していた、秋田の名物男 “中島のてっちゃ” は、駅員のお目こぼしで秋田駅の待合室や、秋田駅前「竜神堂」の縁の下もネグラにしていたという。
「かめや」の “か” を亀の形にデザインしたロゴマークがある「かめや本店」の看板の向こう側、レンガ色の屋根が見える建物が、金座街の角地に位置した洋服の「森長」金座街店。
その後方に、現在の「秋田市公営駐車場」の場所にあった「東北電力秋田支店」の無線鉄塔がそびえる。
昭和48(1973)年9月、新国道沿いの山王五丁目に「東北電力秋田支店」新社屋竣工。当時、新社屋の向かいは「秋田中央交通」社屋とバスターミナル。その跡地に、昭和60年代「長崎屋秋田店」を核テナントとし、食品スーパー「ファミリーストアなかよし」が入居する「秋田中交ホリディスクエア」が開業。時を経て今は「ドン・キホーテ秋田店」となった。
洋服の「森長」付近はピントが甘くて不鮮明だが、手前に「森長」東隣の喫茶店「パーラー・オクタ」(のちにポミエとなる) の丸形袖看板、そして右手に「森長」の二階に入っていた純喫茶「カカシ」のスタンド看板と店名入り装飾テントを確認。 これで70年代初頭の撮影と特定できた。
▲昭和46(1971)年 新聞広告
昭和46(1971)年1月26日「森長」金座街店二階に純喫茶「カカシ」オープン。
お待たせいたしました
純喫茶 カカシ 堂々オープン
春は馬車に乗って、でもことしの春は装いも新たな純喫茶《カカシ》とともにやってまいりました。
ヨーロッパモードのデザイン・・・・・・。香り高いコーヒーのすばらしい味・・・・・・。
きっと《カカシ》はあなたのティールームとしてごきげんな店となるでしょう。
どうぞ彼女と・・・・・・彼と・・・・・・。ご一緒に早春とともにワイドオープンした《カカシ》へお出かけください。
▲純喫茶「カカシ」のブックマッチ(紙マッチ)
マッチの裏面に「森長」の広告。純喫茶「カカシ」は同店が経営していたのだろう。
秋田県内全域および「ダイエー山形店」盛岡の「協働社ビル」などに、80年代の最盛期には約30店を展開、年商30億を計上していた「森長」も、相次ぐ全国チェーン店の進出のあおりを受け、徐々に経営が悪化、本業を不動産業にシフトして経営を続けていたが、平成24(2012)年に破産。
最後まで名前が残っていた「フォンテAKITA」内の「森長」も、平成28(2016)年12月をもって廃業、50余年におよぶ歴史に幕を下ろす。「森長」のことはいずれまた。
新聞広告を見ると「カカシ」は当時、秋田のほか新潟・東京・甲府に店を構えるチェーン店で、どうやら筆頭の新潟市古町通(現・新潟市中央区古町通)の古町店が本店らしい。
「喫茶 カカシ」で検索すると「カカシ」古町店の一階はメンズショップ「ヤマダ」という紳士服の店だったとのこと。同業である秋田の「森長」と交流があったのかも。
▲Googleストリートビュー 撮影日:7月 2018
Googleストリートビューで見つけた、メンズショップ「ヤマダ」と二階の純喫茶「カカシ」古町店の跡。
▲Googleストリートビュー 撮影日:5月 2018
こちらは純喫茶「カカシ」東京店が入っていた東京市品川区上大崎の「マツヤビル」。
「秋田駅前商店街とヨーカドー変遷」に書いたように、銀座街、平和通り、末広町と、その界隈の建物が取り壊された跡地に、昭和55(1980)年「イトーヨーカドー秋田店」を核テナントとする「秋田ショッピングセンター」がオープンすると、地権者である「中央電気商会」はファンシーショップ「Happy Day」として入居、おもちゃの「ポパイ」は飲食業に転業し、しゃぶしゃぶ・すき焼き・天ぷら「煌・あかり」うなぎ・なべ料理「六兵衛」をレストラン街に出店した。
次いで昭和59(1984)年、金座街跡地に買物広場(アゴラ広場)とバスターミナルがオープン。隣接する高裁跡地に「西武百貨店」と地元の老舗デパート「本金」が提携した「ほんきん西武」(現・西武秋田店) 開業。金座街にあった商店の一部もテナントとして入居する。
最後に「竜神堂」純喫茶「カカシ」旧「東北電力秋田支店」初期「まんぷく食堂」と、消えた駅前小路のおおよその位置を現在の地図に重ねて提示。駅前商店街周辺について言及した過去記事は文末の関連記事リンク先に。