「ナタ漬け」のシャリシャリッ!

川端たぬき

冬は保存食である漬物が食卓に上がることが多かったが、なかでも、ナタでザックリと乱切りにした大根を麹で漬けた「ナタ漬け」の味は忘れがたい。



数十年前の家は気密性も低く、暖房もない台所などに置かれた漬物樽の上澄みには、シガ(氷)が張るほど。

薪ストーブで暖まった居間でちゃぶ台を囲んで食べた「ナタ漬け」は、表面が凍ったシャーベット状で、かじるとシャリッとした歯触り。大根の甘みが口に広がり、添えられた菊花の香りがわずかに後にのこる。

家には「ナタ漬け」専用のナタがあった。それは、すこし歯の欠けた使い古しのナタで、あまり切れ味の良いものよりも、切り口がランダムになり、味がしみ込みやすく、さらに、氷が張るくらいの環境でなければ発酵が進みすぎてうまく漬からないのだという。

最近市販されている「ナタ漬け」には、ナタではなく包丁で切ったような、切り口が滑らかで小ぶりのものがあるが、これでは「ナタ漬け」とは言えない。あのゴツゴツした断面から生まれる食感こそが「ナタ漬け」の魅力なのだから。

シャーベット状のなつかしき「ナタ漬け」を食べたいときは、冷凍庫で凍らせたのを室温で半解凍して、かじりつく。「シャリシャリッ」とした食感は、遠い日の記憶の中のおふくろの味だ。

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