秋田名物「猿貝焼」のお話

秋田では猿を貝焼(鍋物)にして食べる習慣が古くからあり、市民市場や魚屋に行けば新鮮な猿肉をいつでも買い求めることができる。
脂の乗った厳冬期から木の芽を主食とする春先の猿の味は格別だ。フォアグラのような脳味噌の濃厚でありながら、サッパリとした味も食通をうならせる。猿肉は体が温まり、子どもの夜尿症にも効果があると伝えられている。
‥‥などというホラ話はさておき、南秋田、秋田、仙北周辺に分布する「さるかやぎ」というユニークな方言は、「ばか者め!」とか「畜生!この野郎め!」というニュアンスの罵倒語であり、また、軽はずみなお調子者に対しても「この、さるかやぎ!」と使われる言葉である。
この方言には元々「猿を貝焼にして食べるような人で無し」というような意味合いがあるのではと考えていたが、『語源探求 秋田方言辞典』(編著・中山建)によれば、その語源は江戸語の「猿返・さるっかえり」という、玩具の飛人形に猿を用いたものにあり、それが転じて、軽佻浮薄な人をののしって言う語になったものとし、「サルッカエリ→サルカヤリ→サルカヤキ」と変遷したと考察している。

「飛人形」という玩具は「とんだりはねたり」などの別名をもつ江戸玩具で、浅草名物として江戸中でもてはやされた人気の玩具だったという。
今も浅草では復活された「飛人形」が売られているが、その構造は、張り子のつくりものをのせた割竹の下部に仕掛けた竹片をうしろに回し、ニカワ(粘着剤)で止め、下に置き、しばらくすると仕掛がはじけて、突然飛び上がり宙返りするというもの。
張り子のつくりものは、猿や兎などの動物もののほか、人物をかたどった役者ものがあり、その人形にかぶりものをかぶせた「亀山のお化け」と呼ばれる「飛人形」は、仕掛がはじけて飛びあがったとき、かぶりものがはずれて、いろいろな動物などの姿が現れるという趣向をこらしたものであった。

猿の「飛人形」想像図
猿を題材にした「飛人形」は見たことがない。この想像図は古い役者ものの「飛人形」の写真を参考にし、人間の顔を猿に変えて描いたもので、うしろにあるのがかぶりもの。
もうひとつ、これは自説だが、秋田・青森方面には「けやぐ」という方言があって、実際に聞くと「かやぎ」に限りなく近い発音である。
「けやぐ」は「契約」が語源で、親友とか仲間を意味する言葉。だから、「さるかやぎ」は「猿契約」が語源で、「猿の仲間」=「猿と同類」=「畜生」と、人を卑下する言葉だった可能性はないものだろうか。

土崎出身の劇作家・金子洋文は『牝鶏』のなかで、「畜生ッ、畜生ッ、手前のやうなごろつき出て行きゃがれ、一刻も早く出て行きやがれ、この猿鍋(さるかやき)」と故郷の方言を使っている。さすが「さるかやぎ」の本場、土崎の湊っ子・洋文先生はその使い方も的確である。
最近マスコミを賑わせた、民主党の永田とかいう若造と、その取り巻き連中も「さるかやぎ!」と呼ぶにふさわしい。
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飛人形の動きが見られます