ツクバネの不思議のカタチ

ツクバネ
山野に自生する植物たちが子孫を残すために工夫された種子には、さまざまなバリエーションがあり興味がつきないが、なかでも「ツクバネ」の種子(果実)の造型は美しくも面白い。つくばね【衝羽根】
(1)羽子板遊びのはね。羽子(ハゴ)。
(2)ビャクダン科の落葉低木。山地に生え、根は他の木に半ば寄生する。高さ約一メートル。披針形の葉を対生。雌雄異株。花は淡緑色で初夏、開花し、雄花は散房状につき、雌花は単生する。果実は卵状楕円形で、頂に四個の萼片が残存し、衝羽根に似ている。ハゴノキ。[季]秋。(大辞林)
ツクバネの種子は四枚の苞をつかって、竹とんぼのようクルクルと高速回転して宙を舞い、フワリと優しく着地する。
羽子板の羽根に似たカタチの実を結ぶその樹は、ツクバネ(突羽根・衝羽根)と呼ばれ、ハゴノキ(羽子の木)、コギノコ(胡鬼の子)の別名がある。
また、秋田の郷土史家の武藤鉄城は「羽子豆」「ハンコ豆」「山マメ」の方言を挙げ、「ハンコ豆というのは幹が印材になるからだという」とし、角館郊外にこの木が多い山があり、ハンコ豆山と呼ばれていると著している。

古くは、羽子板は「胡鬼板・コギイタ」突羽根は「胡鬼の子・コギノコ」と呼ばれていた。「胡鬼・コギ」とは「唐土(とうど)の鬼」=「エビス(異郷)からやってくる邪気(邪鬼)」をいう。つまり羽子板とは邪気をはらう、厄除け・厄払いの儀礼に使われた「呪具・じゅぐ」(まじないの道具)であったのだ。
現在も一部の神社では、羽子板を「厄を羽根返す、羽根のける」縁起物として、新しい年の無病息災を願い頒布している。
室町時代末の『世諺問答』では、羽根つきは子供が蚊に食われないためのおまじないとしている。ムクロジの玉に鳥の羽をつけた胡鬼の子(羽根)を、蚊を食うトンボの姿に見立て、これを空につきあげてトンボの飛翔になぞらえ、蚊除けのまじないとするというのだが、正月に早春から夏の蚊のためのまじないというのはおかしいとの指摘もある。
常陸の国(茨城県)筑波山の伝説に、「伊邪那岐尊・イザナギノミコト」と「伊耶那美尊・イザナミノミコト」の夫婦神は、「日神」と「月神」の二人の子供のために、筑波山に自生する「ツクバネ」の実を採り、これを掌で打ち上げて遊ぶことを教えたとあり、これが羽根つきの起源ともいう。いずれにしろ「ツクバネ」は古代から子供らの玩具として遊ばれたに違いない。
羽子に似た「ツクバネ」は正月の茶花として用いられ、その若葉はおひたし、あえもの、若い実は煎ったり天ぷらなどで食され、地方によっては葉のついた姿のまま塩漬けにして、お節料理の添えものにする。
俳諧では「衝羽根」「つくばね」「 胡鬼の子」「羽子の木」は秋の季語。

晩秋の陽に照らされて、てるてる坊主のようなツクバネの実がひとつだけ、落ちることなく、とり残されていたのだろうか。
-----------
関連リンク
ツクバネ(いしかわ 樹木図鑑)
ツクバネ(金剛山・樹木図鑑)