久保田城下の「かまくら」行事

藩政期の秋田市での小正月(旧暦の一月十五日、あるいは十四日から十六日まで)の様子は、『秋田風俗問状答』などの文書で知ることができる。『風俗問状答』とは、江戸の考証学者・屋代弘賢らが幕府の後ろ盾をもらって諸国風俗問状を全国に配布、それに応じて各藩が答えたもので、「諸国風俗問状答秋田」が文化十一年に提出された。秋田六郡の風俗・年中行事の詳細に絵図が付されている貴重な資料で、現在は国立公文書館が所蔵、異本が秋田県立図書館にある。

20050216151601.jpg
『風俗問状答』より 

一月十四日、二~三日前より家々の門外に雪を積み重ね、水をかけ固めて方形の雪壁をつくり、当日にはその中に萱(カヤ)を積み、松の内に家を飾った門松、しめ縄なども入れられ、周りには鎌倉大明神、左義長、爆竹などと書いた紙の旗や様々な四手(シデ)、ホタキ棒、まゆだま、米俵、などが飾られ、小机には餅や神酒を供える。

子供らはホタキ棒を持ち、道行く若い女性の尻を打つなど戯れをする。これは元気な子供に恵まれるようにとのマジナイが起源だが、若い女達はこの日ばかりは恐れをなして外出を控えたほどだったという。

20050216151505.jpg
『風俗問状答』より 

夕刻になると木のホラを吹き鳴らし、それを合図に火打ち石で火をおこし「かまくら」の中に火を放つ。勢いよく燃えあがる火を米俵に移して振り回すと、見物人の若い衆もこれに加わる。馬を所有する者は、馬にも見せようとして引いてくる。米俵は二百~三百個も用意された。

20050216151534.jpg
『秋田風俗絵巻』部分

米俵に火を付けるとき、「ヂャアホイ、ヂャアホイ」の掛け声で囃し、子供らは「鎌倉の鳥追いは、頭切りて塩付けて、塩俵へうちこんで、佐渡が嶋へ追うてやれ。佐渡が嶋近くは、鬼が島へ追うてやれ。」と、鳥追い歌を唄う。「鳥追い」は田畑の害鳥駆除と豊作を願うもの。

家を継ぐ男の子がいる家では、その子が十五歳になるまで参加した。その夜は親族が集まり酒盛りが始まり、唄い舞う賑やかさは、外を通る見知らぬ人も招き入れ、宴は夜が明けるまで続く。この日は城下のあちこちで燃えあがる火で空が明るくなるほどだったという。

以上は内町(侍町)の行事で、外町(商人・職人町)では、「外町にもあるが、家が密集していて火の粉が飛び散り火災の心配があるので、今はたまに行う。」と『秋田風俗問状答』にあるが、これは、お上に提出する文書という性格上、体裁の悪いことは書かなかったのではないかと思う。実際はどうだったのか、『肴町丁代文書』には、「延享四年(1747)、上肴町では通行人にカマクラの火をふりかけるなど無礼な行為があったため今後上肴町ではカマクラ鳥追い行事は固く停止するように通達が出された。」にもかかわらず「四年後の寛延四年には、仁井田村の者に火の粉がふりかかり、口論となり大勢が入り乱れての殴打事件をひき起した」と再三のトラブルが記されていることから、外町での行事の衰退は建て込んだ住宅事情よりも、祭りにつき物の喧嘩沙汰が原因と推察できる。やはり外町の住民は内町の武家と違って気性が荒かったようだ。

「左義長・さぎちょう」とは、もともと宮中清涼殿で小正月に行われる行事。青竹を束ね扇子・短冊・天皇の書を添え、陰陽師などが焼いた悪魔払いの儀式が、形を変えて民間にも広まっていった。松が明けて、門松・しめ縄・書き初めなどを焼き、その火で餅を焼いて食べ無病息災を祈る「どんど焼き」も「左義長」が起源。

こうしてみると、「かまくら」という行事が、災害を払う左義長の火祭りと、豊作を祈る鳥追いが融合した行事だったことがわかる。観光かまくらで有名になった横手でも、かつては同様な光景が見られたらしい。かまくら自体も現在のような形に統一されたのは戦後からのことで、それ以前は、かまど型の雪室をつくり、天上は板をならべ、ムシロなどをのせ、その上を雪で覆ったものだった。

関連リンク
角館・火振りかまくら
六郷かまくら
保新潟県魚沼・鳥追い洞

たまくら

久保田城下の「かまくら」行事

なるほど、非常に興味深い内容ですね。

私の出身は大曲なのですが、近所に諏訪神社があり、やはり「鳥子舞」という小正月行事を毎年おこなっております。

「神社の境内に高く雪盛りして作った祭壇で、榊舞、鳥子舞などを奉納した後、鶏の鳥帽子で着飾った神官が御神木を「歳徳神」の方位へ投げ出すと、集まった大群衆は競って奪い合い、すさまじい争奪戦を演じる。御神木は商売繁盛に御利益があると言われている。 」

という行事なのですが、以前、うちの親父がこの争奪戦に参加し、血だらけになって御神木の欠片を取ってきたことがありました。
家は商売やっているわけでもなかったのですが、、、^^;

あぁ 「かまくら」から話題がそれてしまいましたね。へばへば ^^;;

2005.02.17 Thu 11:25