理髪館のあるY字路
はじめてその絵画を眼にしてからというもの、Y字路を見つけては記録してきたが、心動かされる求心力がある魅力的なY字路にはなかなか出逢うことができない。横尾氏の描くY字路にしても、現実そのままの風景ではなく、撮影した素材を合成したものが多いという。
今までに記録した秋田市内のY字路のなかで、いちばんのお気に入りはコレ。

この道は中学校への通学路のひとつだった、なじみ深いY字路。場所は大堰端から太平川方面に抜ける旧楢山桝取町。藩政期は武士の給料であった扶持米を計る役職の「お桝取職」が住んだという町。
今は暗渠になっているが、Y字路の前を以前は堰が流れており、そこに小さな橋が架かっていて、左の小路を少し歩くと、うずまきかりんとうを造る家。右の道を進んでほどなくの桶屋では、職人が杉の木と格闘しながら大きな桶を造っていた姿を思いだす。さらに進んで右折すると、蛇行して太平川に注ぐ堰に架かる小橋、そして寺小路、百石橋、金照寺山登山口・・・。
まだ大堰端が暗渠となる前、このあたりは鬱蒼とした樹木も多く、夜ともなれば妖怪どもが徘徊していそうな、独特の雰囲気がただよう場所であった。
その分岐点にあって、このY字路を特別な存在にしているのが、戦前からの理髪店。薄くなった看板に右横書き表記で「館髪理木々佐」と記され、装飾のある人造石塗りのザラザラした壁面も印象的な、おもむきのあるレトロ建築となっている。
もうずいぶん前に廃業した理髪店前の、所有者のいない三角形の閑地に、電信柱と標識とゴミ置き場。


横尾忠則の描くY字路シリーズは夜景ではじまり、後には真昼のY字路も描かれて、それはそれで良いのだが、やはりY字路には夜景がよく似合う。
引き返すことのできない人生の岐路、または異界への分岐点のようにある、なにか言い様のない奇妙さをともなうY字路に立つときの感覚を、坂道研究家として著書もありY字路マニアでもあるタモリは、横尾忠則との対談のなかで、Y字路には「妙な居心地の悪い気持ちよさ」があると表現している。

理髪館のあるY字路 No.01/蒼月夜
2014.12 理髪館解体
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関連リンク
「Y字路」横尾忠則
ほぼ日刊イトイ新聞 - Y字路談義。より、横尾忠則の描く「Y字路」画像
ほぼ日刊イトイ新聞 - Y字路談義。
横尾忠則・タモリ・糸井重里による対談、全18回
横尾忠則オフィシャルサイト