理髪館のあるY字路

デザイナーから画家に転身した横尾忠則による「暗夜光路」( 2000年発表)にはじまり、やがてライフワークとなる、Y字路をテーマにした絵画シリーズは不可思議で魅惑的な作品群である。(下記関連リンク参照のこと)

はじめてその絵画を眼にしてからというもの、Y字路を見つけては記録してきたが、心動かされる求心力がある魅力的なY字路にはなかなか出逢うことができない。横尾氏の描くY字路にしても、現実そのままの風景ではなく、撮影した素材を合成したものが多いという。

今までに記録した秋田市内のY字路のなかで、いちばんのお気に入りはコレ。



この道は中学校への通学路のひとつだった、なじみ深いY字路。場所は大堰端から太平川方面に抜ける旧楢山桝取町。藩政期は武士の給料であった扶持米を計る役職の「お桝取職」が住んだという町。

今は暗渠になっているが、Y字路の前を以前は堰が流れており、そこに小さな橋が架かっていて、左の小路を少し歩くと、うずまきかりんとうを造る家。右の道を進んでほどなくの桶屋では、職人が杉の木と格闘しながら大きな桶を造っていた姿を思いだす。さらに進んで右折すると、蛇行して太平川に注ぐ堰に架かる小橋、そして寺小路、百石橋、金照寺山登山口・・・。

まだ大堰端が暗渠となる前、このあたりは鬱蒼とした樹木も多く、夜ともなれば妖怪どもが徘徊していそうな、独特の雰囲気がただよう場所であった。

その分岐点にあって、このY字路を特別な存在にしているのが、戦前からの理髪店。薄くなった看板に右横書き表記で「館髪理木々佐」と記され、装飾のある人造石塗りのザラザラした壁面も印象的な、おもむきのあるレトロ建築となっている。

もうずいぶん前に廃業した理髪店前の、所有者のいない三角形の閑地に、電信柱と標識とゴミ置き場。





横尾忠則の描くY字路シリーズは夜景ではじまり、後には真昼のY字路も描かれて、それはそれで良いのだが、やはりY字路には夜景がよく似合う。

引き返すことのできない人生の岐路、または異界への分岐点のようにある、なにか言い様のない奇妙さをともなうY字路に立つときの感覚を、坂道研究家として著書もありY字路マニアでもあるタモリは、横尾忠則との対談のなかで、Y字路には「妙な居心地の悪い気持ちよさ」があると表現している。


理髪館のあるY字路 No.01/蒼月夜



理髪館の消えたY字路・楢山桝取町
2014.12 理髪館解体


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関連リンク

「Y字路」横尾忠則
ほぼ日刊イトイ新聞 - Y字路談義。より、横尾忠則の描く「Y字路」画像

ほぼ日刊イトイ新聞 - Y字路談義。
横尾忠則・タモリ・糸井重里による対談、全18回

横尾忠則オフィシャルサイト


 明けましておめでとう御座います。 管理人さんにとって良いお年となりますよう。
 ご無沙汰しております。 洋と申します。 夫婦共々拝見させて戴いております。 私も南中出身でして、この場所は通学路でした。 私の中学生時代は理容館もご商売なさっていたのを記憶しています。
 今は所有者のいない閑地ですか。まさに岐路としての"Y"になっているのでしょうか。

今後も楽しみに拝見させて戴きたく、宜しく御願い申し上げます。 それでは。 

2008.01.06 Sun 17:42
たふらんけ。

洋さん コメントありがとうございます。

所有者のいない閑地というのは分岐点、つまり三角形の頂点のわずかな部分だけでして、
床屋さんは住居として使われているようです。
床屋さんが現役の頃は、右側の道を進むとガラス戸越しに中の様子が見えましたね。
その向かい、道の右手にクリーニング工場がありましたが、今は空き地になっています。

2008.01.06 Sun 18:01
ゆうき

なつかしいです

はじめまして。私は現在、横浜でデザイナーをやっていますが、長野生まれの秋田育ちで、とくに青春時代を秋田で過ごしたので、秋田が大好きです。
いつも楽しく、懐かしく拝見しています。

この理髪店のY字路の左側を奥に入ると、幼稚園があって(今はあるのかな?)そのトナリに、幼少時代住んでいました。私は双子でして、それが珍しいのか、よくトナリの幼稚園の子どもたちにからかわれていたものです。

今も帰省すると、時々この辺りを通って秋田駅に行くことがありますが、この理髪店だけは当時のままの姿でここにあって、懐かしさに浸れます。
私もコレは、横尾忠則に教えなくては!と思ったことがあります。
今後も変わらぬ姿で、保存されて行って欲しいと思います。

2008.01.10 Thu 16:11
たふらんけ。

ゆうきさん コメントありがとうございます。

その幼稚園は楢山保育園ですね。
あのあたりだと小中学校も近くて通学は楽だったでしょう。

昨年は、Y字路から築山小学校へ向かう小路の向かって右側の一帯、
ト一屋方面へ向かう左手角地にあった古い不動産屋さんから長泉寺までが、
小学校の裏から太平川を超えて牛島方面に延びる、新しい道路の工事で撤去されたため、
付近の景色も少しずつ変化しています。

ほんとに横尾忠則の絵に出てきそうな、ノスタルジックで雰囲気のあるY字路ですね。
同じ思いでY字路を見ていた方が居たことをうれしく思います。

2008.01.10 Thu 20:42
しかだねす

普段この辺を徘徊しているのですが、こうやって取り上げて頂くと有る意味自分探求みたいに、忘れかけていた思い出を回想することが出来て、その機会を下さるたふらんけさんにはいつも感謝しています。普段はサラリと気にも留めず流してしまっていますが、歴史ありです!
此処とっても懐かしいです!中学高学年かか高校の時分に此処のお宅へ遊びに行った記憶があります。2回の真ん中の窓のところが娘さん?お孫さん?の部屋で確か佐々木○○○さんだったと思います。

とても可愛い娘さんでしたが
今頃どうしているんでしょうか?

何やら不思議な気分です。

2008.03.13 Thu 19:50
楢山表町育ち

この辺を通ると、ドーナツ?のニオイがしました。

2010.04.19 Mon 09:45