江戸風流・紋切型を遊ぶ

川端たぬき

折りたたんだ紙にハサミでデタラメに切り込みを入れて開くと、花模様めいた幾何学模様が出現し、さらに折り目を増やして切ると模様は複雑さを増してゆく。子どもの頃、誰もが遊んだ切り紙の面白さは、広げてみるまで結果がわからないこと。広げるまでのときめきと広げた瞬間の驚き。




●神仏とともにあった切り紙

日本の切り紙は古くから祭祀に用いられてきた。七五三縄(しめなわ)に下げる紙垂(かみしで)、神霊の依代(よりしろ)となる御幣(ごへい)、正月迎えの御飾り等々、神道・修験道などで祭祀の場を彩る切り紙として神仏と共にあった。


与次郎稲荷・千秋公園本丸


八橋日吉八幡神社秋季大祭・御旅所の標(しめ)縄


左・南方町 石神社「宇賀魂神」 右・志津川町 都倉神社「えびす飾り」
『祈りのかたち-宮城の正月飾り』宮城県神社庁発行 より


●江戸の紋切遊びとステレオタイプ

江戸の後期になると「紋切遊び」なるものが庶民の間に流行する。正方形の紙を折り、雛形に沿って切り抜いて広げると、美しい「紋」が出現する。その雛形を「紋切型」(もんきりがた)という。

寺子屋の教科書にも採用された「紋切遊び」の雛形を集めた書籍が、江戸末期から明治期に多く出版され、お祭りの露店でも戦前まで雛形が売られていたという。


「模様紋帳諸職雛形』明治四十五年発行より

江戸の職人により考案された「紋切型」から、「決まり切って堅苦しく面白みのないステレオタイプな思考・事物・物言い」と、否定的に使われる「紋切型」という言葉が生まれる。

明治期に出版された紋切型の雛形集に『教育必用紋切形ぬゐ紋図解・小笠原行儀作法』という書籍がある。「紋切型」な礼儀作法を教える「小笠原流」が「紋切型」を子どもの教育の一環として教えていたということが面白い。

現代では否定的に使われる「紋切型」という言葉を「伝統文化」と言い換えても良い。毎年くり返され、受け継がれてきた、四季の行事、祭り、歳時記、季語など、うるわしき伝統文化のカタチは「紋切型」そのもののではある。「紋切型」をモノの基本・定型ととらえれば、それもまんざら捨てた言葉ではない。

「紋切型」という定型を守ることも重要だが、「紋切遊び」を続けているとオリジナルなデザインに挑戦したくなる。つまり「型破り」である。しかし、そう簡単に江戸の紋を越える、美しく斬新なパターンができるものではない。


●よみがえった紋切遊び

「紋切遊び」の型紙と和紙色紙をセットにした書籍が出版され、ちょっとしたブームになっていることを知ったのは、数ヶ月前、ジュンク堂でやっていた出版社・エクスプランテのフェアでのこと。



造形作家・下中菜穂さんは、忘れられていた江戸の「紋切遊び」を発掘し、江戸の粋な意匠がちりばめられた『シリーズかたち・紋切り型』を出版。国内外でワークショップや展覧会を開催している。






●「はつゆき」を遊ぶ

エクスプランテでは、江戸時代に雪の結晶を図案化して流行した「はつゆき」模様を、身近にある紙で紋切して、メッセージを添えて送ってもらい展示する「アートイベント〈はつゆきプロジェクト〉」を実施しており、作り方や型紙は以下関連リンクから入手できる。

自分も「はつゆき」を切ってみた。



シンプルでありながら味わい深い「はつゆき」のカタチに加え、折りたたんで切ることにより、放射状に残る折り目が平坦な紙に陰影を刻み、特有の表情を添えている。これもまた「紋切遊び」ならではの面白さ。

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関連リンク

アートイベント〈はつゆきプロジェクト〉

もの部ログ〈はつゆきプロジェクト事務局〉

エクスプランテ

紋切

紋きり遊びを楽しもう

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(2007/09)
下中 菜穂

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