散る桜落ちる桜の花筏

川端たぬき


08.05

たそがれ時に、千秋公園の内堀を桃色に染める八重桜の花筏。

昨年の五月初旬、まだ花の盛りにもかかわらず、天候の影響で、まるで身を捨てるかのように一斉に落花、群青にたそがれる、つかのまのマジックアワーに現出した、美しくもはかなく幻想的な光景に、水の女「オフィーリア」を想う。


花筏組みてオフィーリアを載せよ 柴田奈美
シェークスピアの悲劇『ハムレット』のヒロイン「オフィーリア」は、恋人のハムレットに捨てられたあげく、父親までも彼に殺される。気がふれた彼女は、花咲く小川のほとりで、作りあげた花環を柳の枝にかけようとして、花環とともに川に落ちて命を落とす。


ジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』(1852年・英国・テート・ブリテン収蔵)

かの時代の多くの画家たちが「オフィーリア」を題材にしたが、なかでも有名なのが、ミレイの代表作となったこの魅惑的な作品。

状況にあらがうこともなく、身をゆだねるように清冽なる水と同化し、静かに歌を口ずさみながら、花とともに浮かぶ、水の女「オフィーリア」の麗しさ。

日本の画家・文人にも深いインスピレーションを与えた「オフィーリア」。最近ではロンドンのテート・ブリテンでミレイの「オフィーリア」に衝撃を受けた宮崎駿が、手描きへの回帰を図った「崖の上のポニョ」を制作、「オフィーリア」をモデルとして、ポニョの母・グランマンマーレを描いた。



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