露草のうつろい易き青空よ

川端たぬき



朝露の降りる早朝に咲き始め、午後にはしぼんで命を終えてしまう、露のごとくはかなきツユクサ(露草)の、鮮やかな青色と、見れば見るほど不思議なそのカタチ。

ツユクサの和名は“露をおびた草”という意だが、古くは「つきくさ・付草」とよばれていた。その意は花びらの青色が“付きやすい”(衣に摺るとよく染み着く)ため。

万葉集の読みでは「月草」の字が当てられ、その花のはかなさ、その花で染めた着物の色の褪せやすさなどから、「月草」を“うつろいやすさ”にたとえる。



水に溶けやすいツユクサの色素の特性を利用して、染物の下絵を描くために用いられたが、小さい花では効率が悪く、のちにツユクサの栽培変種で大型のオオボウシバナ(大帽子花)で和紙を染めた「青花紙」を絵の具として使うようになる。詳細は下記関連リンク参照のこと。



ツユクサには別名も多い。そのカタチから「帽子花」「蛍草」「蜻蛉(とんぼ)草」、その色から「青花」「縹(はなだ)草」「藍(あい)花」「インキ(インク)花」・・・、なかには「紺屋のお方」という風流な方言も。※「紺屋・こんや」=「藍染めを職業とする家・職人」


かへる日もなき 三好達治

かへる日もなきいにしへを
こはつゆ艸の花のいろ
はるかなるものみな青し
海の青はた空の青
 三好達治詩集『花筐』より
‥‥前略‥‥
草姿(そうし)は見るに足らず、唯二弁より成る花は、全き花と云うよりも、いたずら子にむしられたあまりの花の断片か、小さな小さな碧色の蝶の唯(ただ)かりそめに草にとまったかとも思われる。寿命も短くて、本当に露の間である。然も金粉を浮べた花蕊(かずい)の黄に映発(えいはつ)して惜気もなく咲き出でた花の透き徹る様な鮮やかな純碧色は、何ものも比ぶべきものがないかと思うまでに美しい。つゆ草を花と思うは誤りである。花では無い、あれは色に出た露の精である。‥‥後略‥‥
徳富蘆花『みみずのたはこと』「碧色の花」より
_________

関連リンク

青花紙/色の万華鏡
青花(ツユクサの栽培変種オオボウシバナ)で染める青花紙。今でも京友禅などの下絵に使われている
色の万華鏡 TOP
「日本の色」に関する充実したサイト

青花紙は今/滋賀県草津市

季楽vol.18/花を食べる風流・露草を食す。

Comments 1

There are no comments yet.
-
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2009/09/23 (Wed) 08:29
  • REPLY