朝もやの乳白色に「明がらす」舞う

大館市御成町・山田桂月堂製
子どもの時分、よく手土産にもらった、大館銘菓「明(あけ)がらす」。
明治17年頃、京都銘菓「寒氷(かんごおり)」を手本につくられた、羊羹状で乳白色の半生菓子。当時、桂城小学校の校長であった俳人・羽生竹亭氏が試食し、純白の生地にちりばめられたクルミの断面を、朝もやのなかを飛翔するカラスに見立て「明がらす」の名をつけたと伝えられる。
原料は砂糖と寒天とクルミ、シンプルだが製造には手間がかかり、熟練を要するという、丹念に練りあげられた純白の肌の、凛として上品な甘さとサクリとした特有の歯触り、舌の上でトロリと溶け、ほのかにクルミの香が口に広がる。
その強い甘さが時代に合わず、なかば忘れられた銘菓となったが、渋い抹茶に良く合い、茶席の菓子として好まれている。

秋田市南通り宮田・岡田製菓製
岩手県遠野市にも「明がらす」を名乗る、市内の九軒ほどの店で製造販売している名物菓子がある。こちらも大館と同様にクルミを使うものの、主原料に米粉・澱粉を用い胡麻を加えた雲平(うんぺい)系の餅菓子だが、その断面が大館の「明がらす」とよく似ている。(下記関連リンク参照のこと)。
元祖「明がらす」本舗を名乗り「明がらす」の商標を平成七年に登録している「まつだ松林堂」によれば、明治の初めから「くるみ糖」と称して製造販売していたものを、明治40年、クルミの切り口が明け方に飛ぶカラスの様子に似ていることから「明がらす」と改名したというが、この説明はどうも納得がいかない。
大館の「明がらす」をパクったとは断言できないが、偶然の一致とはとても思えない。いずれにしろ、命名に関しては大館のほうが元祖であり、それを真似た可能性の高い店が元祖を名乗り、その名を商標登録していることは、おかしな話しである。
登録商標といえば、居酒屋フランチャイズチェーンの「養老乃瀧」が、秋田市川反三丁目で古くから「養老乃瀧」を名乗っていた居酒屋を訴え、裁判に負けたか示談になったかはおぼえていないが、のちに「秋田乃瀧」と名を変え、市民の話題になったことを思いだした。
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