中通タマゴ公園のひみつ・遊びの彫刻
●タマゴ公園とタマゴの由来
2009.08
タマゴ形の遊具が公園のシンボルになっている、秋田市の中心部にある「中通三丁目街区公園」、通称「タマゴ公園」。
この公園はもともと「秋田大学教育学部附属幼稚園」の敷地であった。昭和31年、幼稚園の創立45周年記念事業として園庭に、タマゴ形のプレイ・スカルプチャー(遊びの彫刻)を設置。
昭和43年、附属幼稚園・附属小中学校は現在地の保戸野に移転するが、コンクリート製のタマゴは移送が困難だったため、そのままこの地に残されることに。同43年、約3千7百平方メートルの幼稚園跡地を市が公園として整備し今に至る。
設置当時の園長が、北欧で流行していたプレイ・スカルプチャーのことを聞きおよび、秋田大学の教官であった阿部米蔵氏に制作を依頼。当時としては他に類を見ない非常に斬新な試みだったという。
由利郡岩城町亀田出身の彫刻家・阿部米蔵氏は、秋田大学に教官として在籍中の昭和20年代末から高度経済成長期にかけて、県内の広場・公園・街路などの公共空間や校庭に数多くのモニュメントを残している。
表紙写真説明
「北欧のアンデルセン的童話的意図が新しい時代感覚をおびた造形となってあらわれたもの・・・」(手塚又四郎氏)
高さ六尺余、長径八尺の大きい卵形のセメント製遊びの彫刻で内部にトンネル様の通路をめぐらしてある。子供達が外から眺め或は触れてよろこび、内にもぐり、かくれ、所々の穴から頭や身体を出したり、ひっこませたり、中の小穴から外をのぞいたりなどでこの遊具と親しみ、知らず識らずのうちに、美的情操を高め、遊びをゆたかにしようとするために考案されたものである。(秋田大学教官 阿部米蔵氏作)秋田大学教育学部附属幼稚園発行『芙蓉』 第31号より
●胎内回帰装置としてのタマゴ
幾何学的ラインが描かれ、数ヶ所に穴が空いた外観も面白いが、なんといっても最大の見どころはその内部。外光に照らされて濃淡の陰影を描く乳白色の肌は、体内の曲線のようになまめかしく、人目もはばからず、思わず潜り込みたくなるほどの吸引力を感じさせる。
内外面に描かれた、猥雑のなかにどこか哲学的な文章も垣間見られるイタズラ書きも、ひとつのアートと云えなくもないが、少し前にタマゴの内外は塗り替えられて、撮影時点(2009.08)にあったこれらのイタズラ書きと、味のある肌の風合いは消えている。
あらためてその内部を覗いたとき、これは“胎内”もしくは“タマゴという母胎”だと思った。制作にあたった阿部氏の構想にも「命を育むタマゴ」=「母胎」というイメージがあったのではないだろうか。
修験道を起源とする「胎内潜り」の風習が各地にある。それは洞窟や洞穴を神仏、とくに女神の胎内に見立て、そこを潜り抜ける行為により「死と再生」=「生まれ変わり」を疑似体験し、枯渇した生命力をリフレッシュせんとする自然回帰的修業の一種。
タマゴに入る(帰る)という胎内回帰的・自然回帰的遊びを通じて、子どもらは無意識のうちに、ミニ「胎内潜り」という「死と再生」を体験しているのだとも云える。それはとてもスリリングで根源的な遊びではある。
設置から半世紀余りのあいだ、いったい幾人のや子どもがタマゴの胎内に帰って(潜って)遊んだことだろう。この手の遊具は時代とともに魅力と存在感を失い、遊ぶ子どもの姿も消えることが多いが、タマゴ公園のプレイ・スカルプチャーだけは、今もなお近所の子どもらや住民たちに、公園のシンボルとして愛されつづけている点において、数ある阿部氏の野外展示作品のなかでも、異色ではあるが知られざる傑作といえよう。
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関連リンク
富士御胎内洞窟
segawaUKO : 弁天洞窟
なつかしい!
子供の頃、このタマゴで遊んだ記憶があります。
あと、カバの彫刻も懐かしいです。
なんだか涙が出てしまいました。
いつも懐かしい思い出を、ありがとうございます。