秋田のソウルフード「肉鍋」の老舗三店

かつて秋田駅前に存在した伝説的駅前食堂「食堂まんぷく」(通称・まんぷく食堂)の人気メニューといえば、年季の入ったアルミ製一人用鍋で食べる「肉鍋」。戦後まもなくにオープンしたこの店が「肉鍋」を出し始めたのは昭和30年代前後のことらしい。それ以前の一人鍋は「豆腐鍋」で、季節によってはそれに八郎潟産のチカなどの小魚を加えて出したものという。20年代はまだ豚肉も贅沢品だったのだろう。


新聞広告・昭和52年

豆腐に長ネギなどの野菜と出汁昆布が入った「まんぷく」の「豆腐鍋」は、湯豆腐風のなかなか乙な一人鍋で、「肉鍋」の人気に負けず劣らず、酒の肴はこれでなくてはダメだという長年のファンも多かった。予算のないときは安い「豆腐鍋」をおかずに飯を喰い、たまに食べる「肉鍋」はごちそうだったから、それを「B級グルメ」等といわれるとなんだか腹立たしい。

秋田市内で「まんぷく」で出していたような「秋田流肉鍋」を提供する店も少なくなった。それは庶民的な定食屋が少なくなったということ。秋田駅前は今、県外資本のチェーン店を中心に、居酒屋が乱立するばかり、往年の「まんぷく」や金座街の「金萬食堂」のような、安くてうまい気軽に入れる店は再開発以降絶滅してしまった。

というわけで、およそ40年以上つづく「肉鍋」の老舗三店を選んでここに記録しておく。


●「さんや食堂」改め「彌ひら」の味噌味肉鍋


2008.01

すずらん通り(三丁目小路)に昭和21年開業した「さんや食堂」。先ごろ初代のおじいさんが亡くなり、店名を「彌ひら」と改めニューリアルした。なじみ深い「さんや食堂」の名が消えたのがさみしい。最近はずっと昼間の短時間だけ開けていたが、今は夜間も居酒屋として営業している。


2010.09


2008.01

「生そば」と「さんや」の看板は消えたが、「肉なべ定食 食事とそば」の看板は以前のまま。

現在の「肉鍋」は味噌味だけで、ほかの店と比べると具の種類が少ない。アルミ鍋でなくホーローなのが残念。



確認できた具材、豚バラ肉・タマネギ・キャベツ・豆腐・もやし・玉子(半熟)。
「肉鍋定食」680円

2014.12追記・2014年11月頃「彌ひら」(旧さんや食堂)閉店。




●駅前食堂「春駒食堂」のベーシック肉鍋

かつては末広町の「食堂まんぷく」の向かいにあって、駅前の再開発で現在地に移転した老舗食堂。

「焼麩」の代用にした「ナルト」を除けば、「秋田流肉鍋」の基本に忠実な具材。たまには味噌味も良いが、やはり「肉鍋」は醤油味がいちばん。ささがきのゴボウが良い味を出している。



確認できた具材、豚バラ肉・長ネギ・タマネギ・豆腐・もやし・シラタキ・ナルト・ゴボウ。
「肉鍋定食」650円




●定食屋「清美食堂」の格安肉鍋

山王官庁街に近い高陽幸町に開業して約40年の庶民的定食屋「清美食堂」。

「肉鍋」は醤油味のほかに味噌味、味噌キムチ味、カレー味、さらには鶏肉の「肉鍋」があり、ほかのメニューも多彩。値段も良心的で食事時は満席になることも。



確認できた具材、豚バラ肉・長ネギ・豆腐・もやし・シラタキ・焼麩・白菜・生卵。
「肉鍋定食」570円

「秋田流肉鍋」の特徴のひとつである、汁のしみ込んだ焼麩がうれしい。ただし、卵がスープにまざると醤油の風味がぼやけてしまう。それにこだわるならば、卵を断るか別容器で頼めばよいだろう。

新国道沿いにかつてあった定食屋では、殻付きの生卵を別の小鉢で出していた。それを鍋にトッピングしたり、すき焼きの要領で具材にからめるなりして、客の好みで食べることができるわけだ。「春駒食堂」のように、もともと卵は別料金だった。



「清美食堂」は、ご当地B級グルメ「秋田かやき」の参加店。この店の「秋田かやき」が、バリエーションに富んだ各種の「肉鍋」というわけ。

しょっつる貝焼に代表される、郷土の歴史に育まれた「一人鍋のかやき」をベースに、現代的なアレンジも加えて各店が創作する「秋田かやき」。2008年、秋田商工会議所が「横手焼きそば」の成功に習って「町おこし」(飲食業界おこし)の一環として仕掛け、約90店舗の参加でスタートしたが、今では数店を残すのみ。

最近になって市外で出店する際の「共通秋田かやき」を決めたが、定食屋から民族料理店まで「一人鍋」というキーワードだけではじめた、統一性に欠けるとりとめもない企画だったから、最初から失敗は目に見えていた。なかには「B級」とはとてもいえない高級食材を使った高価な鍋もあった。

最初に「町おこし・飲食業界活性化」ありきの「ご当地グルメ」を成功させるのは難しく、まず長続きしない。B1グランプリに輝き、全国的に名を広めた「横手焼きそば」は「町おこし」として“造られたブーム”ではなく、50年以上の間、市民に親しまれてきた歴史に支えられて、すでに定着していた食文化であり、昔は駄菓子屋でも出されていた安価なおやつでもあったのだから「B級」の名にもふさわしい。

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