老木の兎の神は月の神・八橋の山王さん

川端たぬき


2004.05

「八橋の山王さん」と親しまれた秋田市外町の総鎮守・日吉(ひえ)八幡神社の境内にあるケヤキの老木。神鳴(雷)に打たれて生じたとおぼしき深い亀裂を覗くと、暗い洞(うろ)の中に神棚が置かれている。


2005.01

その神棚に祀られいてるのは今年の干支のウサギ。以前は翡翠色二体・白色一体の陶器のウサギがあったが、今年の初詣に確認すると一体が消失し、扉の前の皿に賽銭が供えられていた。


2011.01

社務所でこの神棚の由来について訊ねると、先代か先々代の宮司の時代からあるものらしいが、くわしいことは全く解らないという。神社ではなく外部の崇拝者の手により設置されたものかもしれない。

子孫繁栄・豊穣・跳躍などを象徴する縁起の良い動物であるウサギは八幡神社とも少なからぬ縁がある。

全国の八幡神社の総本社、大分の宇佐(ウサ)八幡宮の草創にかかわり代々大宮司を務めたのは、莵狭津彦(ウサツヒコ)莵狭津姫(ウサツヒメ)を祖とし、ウサギをトーテムとした氏族・宇佐氏であった。

その嫡流筋の宇佐公康氏が宇佐家の古伝を検証した『古伝が語る古代史・宇佐家伝承』(木耳社)によれば、古代莵狭(ウサ)族は
ウサ神を氏神として祀っていた。『古事記』に見える〈稲葉の白兔〉とは、実は莵狭族の族長をさしていったのであって、動物の白ウサギではない。
さらに莵狭(ウサ)族の天職について
古代日本人は、氏族の名称を動物や土地の呼び名になぞらえて、氏族の由来や職業を表示していたから、莵狭族の天職とするアマツコヨミ(天津暦)、すなわち、月の満ち欠けや、昼夜の別を目安として、月日を数えたりするツキヨミ(月読)やヒジリ(日知・聖)、または、天候や季節の移り変わりを見定めるコヨミ(暦)の知能によって、肉眼で見る満月面には、濃淡の模様があり、この遠くて手に取って見ることのできない模様が、あたかもウサギに見立てられるところから、月をウサギ神として崇拝し、そのツキヨミ(月読)の天職をもって、莵狭族と称するようになった。したがって、莵狭族の神はウサ神、すなわち月神である。
と著している。

八幡神社の総本社・宇佐八幡宮を創建した宇佐氏の氏神「ウサギ神」=月の神「月読尊」(ツクヨミノミコト)と、日吉八幡神社の老木の洞(うろ)に祀られたウサギがここでシンクロナイズした。

「月を読む」とは「月の満ち欠けを観察し月齢にもとづく暦を用いる」こと。ちなみに「暦」(コヨミ)の語源は「日にちを読む」という意の「日読み」(カヨミ)。古代から農事は月齢をもとに日程が組まれた。「月を読む」という行為には、豊作・豊穣の祈りが込められていることから、月の神を象徴する「ウサギ」は豊穣のシンボルということになる。

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