三角形と水庭のある美術館・新秋田県立美術館
新「秋田県立美術館」(平野政吉コレクション) 秋田市中通一丁目(日赤・婦人会館跡地)再開発地区「エリアなかいち」内 設計・安藤忠雄 地上3階、地下1階、鉄筋コンクリート造り、延べ床面積3739平方メートル 2012年7月21日、暫定オープン
建材から放散し美術品に影響を与える化学物質の濃度が落ちつく、2013年秋、正式オープン予定。
大壁画「秋田の行事」の他、主な収蔵品を描いた藤田嗣治の名を美術館の通称に入れるべく、交渉を重ねたものの、藤田側の了承を得ることができずに断念。平野政吉(パトロン)と藤田嗣治のあいだに生じた確執からはじまったわだかまりが、いまだに尾を引いていることが明らかとなった。
三角形吹き抜けのエントランスホールの天井に穿たれた、自然光とLED電球を光源ととする照明装置が、安藤建築の特徴であるコンクリート打ち放しの空間に光と影を演出。
旧県立美術館の三角屋根に対応して、俯瞰すると建物自体が三角形。内部にも至る所に三角形がモチーフとして使われている。
コンクリート打ち放しの三角形空間に、ゆるやかなカーブを描く螺旋階段。三角形と壁面および階段の直角パターンが一定のリズムを刻み、螺旋階段の曲線が旋律を奏でる。演奏者は螺旋を昇降する通行人。
無機質でモノクロームなコンクリート空間を通過して、二階のミュージアムラウンジに入ると、大きく開かれた窓から目に飛びこんでくる水と緑のパノラマに息を呑む。
水が張られた水庭越しに、広場と広小路を隔てた千秋公園を望む。
水庭とお堀の連続性
人工物と自然との間(あわい)を結ぶ媒介装置としての水庭の、鏡のように景観を映しながら静かに波打つ水面は、天候と時の流れによって、その表情を変える。
広小路が中心商店街であった時代、新県立美術館前の広場付近に存在した「セントラルデパート」や「長崎屋」(パレットビル)の上階にあったレストラン、「イワマ靴店」三階の喫茶店などから、千秋公園を眺望した遠い日の記憶が一瞬脳裏に浮かんだ。
やがて旧館より移される藤田嗣治の作品は自分の好みに合わず、「秋田の行事」も一度見たらもう結構だが、建造物としての「新県立美術館」には、何度も足を運びたくなるような深い魅力を感じた。
オーソドックスな方形構造物にくらべて、三角形をモチーフにした「新県立図書館」のような変形構造物は、随所にデットスペース、つまり利用価値のない無駄な空間を生み、それだけ全体の展示スペースが狭まる。
しかし、建築物を面白くしているのは他ならぬ、その「無駄」であり「遊び」。それらの要素を取りさったならば、凡庸でつまらない建物になってしまう。
旧県立美術館を望む
やはり、旧県立美術館は、新美術館に移行後も残すべき建造物だ。
安藤氏の選定により配置された、イタリアのインテリアブランド Cassina(カッシーナ)製ソファー。
竿燈妙技会の日
▲大壁画「秋田の行事」を旧美術館から搬送するための窓。搬送後はふさがれる。