エレベーターガールと恋と家出

昭和四十三年(1968)(クリックで拡大)
タワー部分の五・六階にゲームコーナーがあるが、階段の踊り場を少し広くしたほどのスペースで、ピンボールやジュークボックスが置かれていた。屋上にはプレハブ造りのゴルフショップとゴルフ練習場ができている。エスカレーターは一階から二階までしかない。
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中学校の先輩が本金デパートのエレベーターガールに恋をした。
先輩は自分の家のサイドボードに飾られていた、小さな陶器製の犬の置物を、その女性にプレゼントするというので付きあわされたわけだが、それが可笑しくて、ついついからかってしまったことが怒りを買い、誰もいないガラス張りの本金タワー展望棟でボコボコに殴られ、しばらく顔の腫れが治まらず、家からも出ることができなかった。
同じ中学校に通っていたエレベーターガールの弟は、ある日突然家出してしまう。しばらくのあいだ見つからず、すがったのはモーニングショーの「家出人公開捜査」のコーナーだった。両親と姉がテレビに出て呼びかけて間もなく、弟は都内で見つかり、番組内で家族との涙の御対面を果たす。
その朝、教室のテレビからは、その番組が流れていた。
「お前らも、こんな恥ずかしい目に会いたくなかったら、家出なんかするなよ」といういましめであったのか、学校では教育の一環として特別に生徒たちに視聴させたのである。その番組の名は「木島則夫モーニングショー」、モーニングショーのさきがけとなった歴史的な番組だった。