千秋公園でバグパイプに出逢う・心ふるわす音色

川端たぬき

▼城址の杜にバグパイプ響く

最近、千秋公園や八橋運動公園でバグパイプを練習する外国人青年に遭遇することがある。

最初は今年(2012)5月、ツツジの咲き乱れる大手門堀ポケットパークにて。秋田でバグパイプの生演奏を聴くのは始めてのこと、条件が良ければ半径約2.5Kmに響きわたるという豊かな音に魅了された。


2012.05 大手門堀ポケットパーク

二度目は8月中旬、千秋公園・黒門跡にて。

黒門は久保田城の正門。脳研がある大手門通りから、今は埋立で縮小された黒門堀にかかる唐金橋を渡って黒門をくぐり、二の丸広場へ到る道筋は正式な登城ルートであった。


千秋公園・黒門跡

青年の正体は、北秋田市の外国語指導助手(ALT)として来日して約5年、現在は秋田市内の英会話スクールで働く米国人英語教師。バグパイプ歴20年を数えるベテラン・バグパイパーにして、剣道・居合道二段の日本通でもある。

楽器の正式名はグレート・ハイランド・バグパイプ。ヨーロッパからアジアまで広範囲に分布するバグパイプ(バック・パイプ)の仲間のなかでも、もっともポピュラーな、スコットランド・ハイランド地方の伝統楽器。

くわえたマウスピースからパイプを通して、脇にかかえたバックへ息を送り、満たした空気を押し出しながら音を出すため、息継ぎをしても音が途切れることがない。旋律を奏でるチャンター・パイプと、通奏低音を出しつづける三本のドローン・パイプで構成され、管楽器でありながら複数のパイプで和音を奏でることができる。

スコットランドでは兵士の士気をあげる目的や、野戦の号令として軍楽隊が演奏し、結婚式、葬儀など祭礼・儀式の場でもバグパイプが奏でられてきた。

バグパイプの楽曲といえば、スコットランドの非公式国家「Scotland the Brave」邦題「勇敢なるスコットランド」が有名。誰もが一度は耳にしたことがあるだろう、20世紀初頭の頃に作曲された行進曲である。


Scotland the Brave

スコットランドのバグパイプには「勇敢なるスコットランド」のようにバンド編成で演奏される派手目な楽曲のほかに、千秋公園のバグパイパーが演奏していたような、主にソロで演奏されるピーブロックという古典的ジャンルが存在する。

ピーブロックの名曲を二曲


Lament for Patrick Og MacCrimmon


Lament For Kinlochmoidart

タイトルに Lament(ラメント・嘆き悲しむ、哀悼する)とあるように、ピーブロックには愛する者の死を惜しむ鎮魂曲が最も多く、一曲の演奏時間は10分前後から20分以上。口承で伝えられてきたため元々は楽譜がなかった。

ピーブロックの特徴は、多くの曲ががゆったりとおだやかで、厳かにして瞑想的。途切れることのないドローン(通奏低音)の上にメロディーがかさなり、ベースラインのテーマに装飾音がからみ、哀愁をおびた音模様を紡いでゆく。


ドヴォルザークと唱歌とバグパイプと▼

バグパイプの古典曲・ピーブロックの旋律にノスタルジアを感じる。その郷愁感覚の理由を考察するために、もう一曲ピーブロックに耳を傾けていただきたい。これもまたラメント(哀悼曲)の傑作だ。


MacIntosh's Lament

ドヴォルザークの交響曲「新世界より」第2楽章に良く似た旋律が聞こえてくるが、ドヴォルザークはこのラメントにインスピレーションを得て、第2楽章を作曲したといわれている。MacIntosh's Lament が作られたのが1526年、「新世界より」が作曲されたのが1893年のことだ。

「新世界より」第2楽章は、日本では「遠き山に日は落ちて」(作詞・堀内敬三)、「家路」(作詞・野上彰)のタイトルで知られる唱歌であり、夕刻、子どもらを家路に急がせるため、スピーカーから流すチャイムとしても使われる、おなじみの旋律。

また、「蛍の光」「庭の千草」「故郷の空」などの唱歌は、明治政府が音楽教育のために導入したスコットランド民謡が原曲で、日本人の心に深く浸透している。同じスコットランドの古典曲・ピーブロックの旋律が郷愁を呼び覚ますのも、ごく自然なことなのだ。


▼雅楽とバグパイプ・通奏音の魔力▼

バグパイプの響きは雅楽の音色にも似て、なかでも笙(しょう)とバグパイプには共通点が多い。


太食調調子(たいしきちょう)・笙独奏・宮田まゆみ

バグパイプと笙(しょう)は、ともに「パイプ・オルガンの祖先」と言える多管楽器。奏でる和音は主に完全4度、完全5度を使う。笙(しょう)はハーモニカのように吹いても吸っても音が出せるために、バグパイプのドローン(通奏低音)と同様に途切れることなく演奏することが可能、等々。

東アジア、東南アジア・アフリカの一部など、笙(しょう)の分布地域は竹の産地。対するバグパイプの分布地域は放牧・牧畜が盛んな地域と重なり、竹からは笙(しょう)が、動物の皮からはバグパイプのバック(袋)がつくられた。

「天から差し込む光」に形容される笙(しょう)の、重層的な通奏高音のゆらぎに耳を澄まし、身をゆだねていると心がやすらぎ、やがて対象音と自分との境界が曖昧になり、一種のトランス状態に導かれ、恍惚となることがあるのは、バクパイプのドローン(通奏低音)にも共通する感覚だ。民俗楽器が奏でる通奏音には「呪術的」とでもいおうか、人を惹きつけて止まない魔力がある。

子どもの頃、昼12時にサイレンが鳴っていた。消防署や距離の異なる複数の工場から響きわたるサイレンが、かさなりゆらぎながら空に吸い込まれるように消えてゆく。その音はバクパイプのドローン(通奏低音)にも似て、とても心地よかったことを思いだす。


2012.09 八橋運動公園第2球技場

始めて耳にするであろうバグパイプの音に圧倒され、呆然と立ち尽くすサッカー少年が居た。

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関連リンク

グレート・ハイランド・バグパイプ - Wikipedia
バグパイプ - Wikipedia

hayatoの響音窟 - 楽器の風景 - バグパイプ
バグパイプの仲間・笙の仲間

Comments 1

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おばさん

ワタシの友人トリスくんだ~

  • 2012/10/05 (Fri) 21:17
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